2025-05-12

台湾における職場いじめ防止法制の動向

近年、台湾社会において職場におけるハラスメント(以下「職場いじめ」)への関心が高まっている。現行法令では、使用者に対し職場における不法行為の防止義務が課されているものの、「職場いじめ」の定義や具体的な防止措置について明文の規定はなく、申立・調査・救済の手続きについても統一された制度が整備されていないのが実情である。特に中小・零細企業においては、防止措置の実施が困難であり、申立てがなされた場合であっても、使用者が消極的な対応にとどまるケースも少なくない。

このような状況を踏まえ、労働部は「職業安全衛生法」改正草案を策定し、現在行政院において審査中である。改正案の柱の一つが「職場いじめ防止」に関する章の新設であり、職場いじめを「職務上の地位や権限を利用し、侮辱・威嚇・孤立・無視等の不適切な言動を継続的に行い、労働者の心身に害を及ぼす行為」と明確に定義した。重大なケースでは、継続性がなくとも成立するとされる。

草案では、使用者に対して企業規模に応じた防止措置を文書化し、内外部の申立・調査手続を明示することを義務付けるとともに、職場いじめの発生を知り得た場合には直ちに適切な対応を取ること、さらに申立人への必要な保護・支援措置を講じることが求められる。加えて、加害者が企業の最高責任者である場合、労働者が外部の主務公庁へ直接申立てを行える制度も導入される見込みである。

また、法案では使用者に対する法的責任を強化し、違反行為に対する行政的・刑事的制裁を拡大することで抑止力の向上を図っている。制度設計の根幹は「申立人の保護」に置かれており、台湾の「性別平等工作法」などに見られる先行制度の構造を参考に、より実効的な申立処理手続と保護規範の構築を目指している。加えて、処罰を受けた使用者については、事業者名や罰則内容の公表を通じて、社会的監視機能の強化も図られる予定である。
本改正は、性別平等工作法等の制度を参考に、「申立人の保護」を中心とした包括的な対処枠組みの構築を目指すものであり、公的機関に対しても考試院と連携した対応手順の整備が進められている。

今後改正法が成立すれば、台湾における職場いじめ防止体制は実効性を大きく高めることとなる。企業においては、自社の人事制度や申立対応体制をあらためて確認し、法令遵守と労働者保護の両立に備えることが求められる。
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